蚕技研11号は、いよいよ5齢になりました。
食欲旺盛で、深夜でも桑を食べ続けます。
1日凡そ150kgの桑を食べるので、桑取りが大変です。(対35000頭)
しかも今週は雨続き。濡れた桑を食わせると病気になりやすいので、天気を見ながら早めに取って水を切っておかなければなりません。
台風接近の予報が出ていた週末、土曜日は大雨の中、桑を取りました。
ところが翌日曜日は台風がそれて日差しも出ましたね。
↑夕方、5時頃に桑を付けておきます。けっこうどっさりのせます。
↓夜中2時に様子を見に来ると、この通り。
丸裸になっています。早く餌をのせなければなりません。
飼育台も、3列に全部使うことになりました。
大きさは、このように薬指に近い大きさです。↓
このような日々がおよそ8日間続き、いよいよ繭をかけ始めます。
今日(5月31日)一部の蚕が繭をかけ始めました。
明日(6月1日)はたぶん上簇(繭かけ)で忙しくなるでしょう。
一方、小石丸蚕の種取も進行中。
先週繭を切って取り出した蛹が、蛾になって出てきました。
交尾をさせて、卵を産ませます。
↑小石丸の蛾が交尾している。
さらに、小石丸の春2期目の稚蚕飼育も進行していて、ものすごく忙しいこの2週間です。
小石丸の春まゆが出来て、工房に届きました。
西都の三財の日高さんに飼育していただいたものです。
気候がよく、日高さんの飼育が良かったのでしょう、小石丸ならぬ「大石丸」と呼びたくなるような、立派な大粒の小石丸が出来てきました。
でも、くびれた形はやっぱり小石丸ですね。
さて、このまゆの一部から、今年の秋と来年の春用の卵=蚕種を作ります。
約5000粒の形の良いまゆを選び出して、繭を切って中の蛹を取り出します。
そして、雄と雌を分けて保管します。
雌雄鑑別の仕事は、けっこう目が疲れます。
メスのサナギの方が、オスよりもやや大ぶりです。卵を体内に準備しているからです。
来週には、羽化して、交尾し、産卵します。
一方、蚕技研11号は、4齢が終わり、4眠に入ったところです。
眠とは、脱皮のために活動を停止している状態のことです。
指さしているのが5齢になったところ。そのすぐ右側のはまだ4齢です。
眠中は餌を付けないので、蚕座は蚕の色で真っ白に見えます。
広い蚕室の3分の2を使うほど、広いスペースが必要になってきました。
18mの飼育台2本がいっぱいになっています。
来週には、繭をかけそうですね。
お米にもコシヒカリ、あきたこまち、など、品種があるように、蚕にも品種があります。
蚕の歴史は品種改良の歴史といってもいいほどですが、特に明治以降の品種改良はめざましいもので、飛躍的に繭の粒は大きくなり、均質な糸が作れるようになりました。
しかし、その一方で、古い品種・・原種には原種の味があり,美しさがあります。
綾の手紬染織工房では、「小石丸」という日本の原種・・凡そ100年ほど前に主流だった品種・・を、昭和63年から復活させて、飼育を続けてきました。
当時は蚕糸業法など、厳しく国のルールに縛られている中で、様々な手を尽くしてようやく飼育にこぎつけることが出来ました。そのあたりの事情は、綾の手紬染織工房のサイトに詳しく書いてあります。(甦った幻の絹「小石丸」養蚕奮戦記)
私たちが小石丸を使うのは、藍染めをした時にけば立ちがなく、美しい織物が出来るからです。
確かにできあがる織物は美しいのですが、粒が小さく糸も短くて細いため、とても価格が高くなってしまいます。
そこで、一昨年から、小石丸のようにけば立ちがなく藍が美しく染まり、かつ経済的にも優れた品種を探して、飼育と染織を繰り返してきました。
しかし残念ながら、今まで試した4品種は、いずれも藍染めするとけば立ちが起きてしまいました。
今年はこれを最後と決めて、蚕業技術研究所が開発した新品種、「蚕技研11号」を飼育してみることにしました。
なにしろまだほとんど実用に供されていないものですから、名前は味気ないものです。藍染めに適していて私たちが使い続けることに決まれば、その時にはかわいい愛称を付けようと思います。
さて、その蚕技研11号、先日蚕種・・卵が蚕業技術研究所から届きました。
25℃の環境で約10日保管して、5月7日、無事に孵化してきました。
5℃の環境で2日間待機して、9日から、いよいよ飼育が始まりました。
孵化したばかりの蚕は、最初は蟻のようです。
70匹のメスが生んだ卵を譲り受けましたが、1匹約400~500粒の卵を産み、約35000頭が孵化してきました。これはもちろん数えたわけではなく、重さで計算したものです。
黒く塊のように見えますが、これが孵化ばかりの蚕のかたまりです。
1万頭ごとに分けて、飼育します。
パレットの上に広げて、上から餌をかけていきます。
餌は、2齢までの稚蚕期は、桑の葉を配合した人工飼料を使います。衛生面と、省力化を考えて、最近は稚蚕飼育は人工飼料育が一般的です。
次のレポートを書く来週には、かなり大きくなっていることと思います。
今年も始まりました、藍まつり。
綾の手紬染織工房で5月5日までです。
先日伝統工芸士に認定された、有光信二作のタペストリー。
絞り染めの鮮やかな洋服。
こいのぼりが泳いでいます。
さて、そんな祭の裏側で、今年も養蚕が始まりました。
飼育室の掃除、消毒などを済まして、4月25日に孵化してきた蚕に最初の餌を与えました。
最初の餌を与えることを、「掃き立て」といいます。
卵から孵化してきたばかりの蚕は体長2mmほどです。
「蟻蚕」と呼ばれ、毛が生えているために色が黒く、蟻のようです。
蚕は、まゆを作るまでに4回脱皮をします。
孵化から1回目の脱皮を「1齢」、
次の2回目の脱皮までを「2齢」、
と数えて、5齢になってまゆを作ります。
下の写真は、孵化から7日目、2齢の最後の段階です。
指との比較で、大きさがわかると思います。
8日目、3齢になったところで、近所の農家に渡して、まゆを掛けるまで飼育をしてもらいます。
下は、農家で桑の葉を食べる、3齢の蚕。
今日は農家に行って、桑畑を見せていただきました。
今年は水不足で、ちょっと葉が乾いた感じでした。
さて、この写真は、うちの工房で20数年受け継いできている「小石丸」という品種の蚕ですが、来週からは、新しい品種の蚕が始まり、こちらはまゆを掛けるまですべて工房で飼育します。
来週からは、この新品種の蚕の飼育レポートをお送りします。
岡田心平