Home匠日記2011年2011年11月かたかべ雄人(ギャラリーうるし屋)
かたかべ雄人

かたかべ雄人

身も心も漆にかぶれてしまったかたかべさんが、漆器について語ります。

ウェブサイトURL: http://www.urushiya.info/

うるし10 ~「角粉」を付け表面磨き完成~

2012年 5月 29日(火曜日) 09:00
輪島など漆器の産地では、すべての工程が分業化されています。
わんひとつをとってみても木地師、下地師、中塗り師、上塗り師などその仕事だけを行う熟練工たちの手から手に渡って、次第に完成へと近づいていきます。そして、その工程の最後に渡るのが「蝋色(ろいろ)師」の手です。

蝋色師は「磨き」の専門家、道具はまさに手だけです。手のひらにシカの角を粉末状にした「角粉(つのこ)」を付け、漆器の表面を猛スピードで磨いています。階段の手すりなどが長い年月の間に、人の手でこすられてぴかぴかになっている事がありますが、蝋色師はこの状態を自分の手と角粉によって瞬時に作ってしまうのです。わたしもたまにこの作業を行いますが、すぐ手のひらが熱くなってしまいます。指紋が消えて無くなるのでは?と心配になることもあります。実際に蝋色師の手からは長年の磨き作業による摩擦で、すっかり指紋は消えています。

このように、角粉で磨きをかけた漆器はしっとりと深みのある独特の輝きを放って完成します。わんは日常的に使ってこそ色つやが増し、いい「顔色」になってきます。そのわんを使う人と時間とか、味のある「自分のわん」を育てていくのではないでしょうか。

うるし9 ~錆付けの回数増やし技補う~

2012年 5月 22日(火曜日) 09:00
前回は、わんを塗る前に、「木地固め」と「布着せ」を紹介しました。今回は布着せした部分に「錆(さび)」を付けます。錆は生のうるしに、砥粉(とのこ)を粘土状にしたものを混ぜて作ります。輪島などでは「下地職人」さんが、わん全体を覆うように錆付けしていきますが、湾曲の面に均等に錆付けを行うようになるには相当な熟練の技が必要になります。私は布着せした所だけ錆を付けて補強し、塗る回数を増やすことによって下地職人さんの技をカバーしています。

漆器作りは「塗り」「乾燥」「磨き」の繰り返しです。この3つの工程を何度も何度も繰り返して、ようやく上塗りとなります。これはうるしを和紙でこして細かなごみを取り除いたものを使い、むらのないように全体を均一に塗っていきます。この上塗りを1回で仕上げたものを「塗りたて」といいます。

さらに鏡のような光沢が欲しい時には「蝋色(ろいろ)」という技法が必要となってきます。この技法は次回ご紹介していきたいと思います。

工程が進むにつれてさまざまな技法が登場してきますが、それらの基本を覚えると、技法の使い分けができるようになりますので、自分の自由な発想で漆器を作る事ができる楽しみが味わえるのではないでしょうか。

うるし8 ~縁や高台の底布を巻き補強~

2012年 5月 15日(火曜日) 09:00
わんにうるしを塗る作業工程を紹介して2回目になりました。今回は漆器をより頑丈なものにするために行う作業である「布着せ」を説明いたします。

この「布着せ」はわんが一番傷つきやすいところを補強するための作業工程です。
これは手や面に接することの多いわんの縁や高台の底に布を巻いて補強します。使用する布は麻布、寒冷紗(かんれいしゃ)、蚊帳などを使います。簡単ですが、重要な作業のひとつです。

まず、補強したい部分の長さを計って、テープ状に布幅1cmの細長い布を作ります。この布をわんの縁にぐるりと巻いて補強していくわけですが、その接着に必要な材料が「のりうるし」です。これは生うるしに同量ののりを混ぜ、よくかくはんして作ります。昔はのりに炊いたお米を使っていたようですが、今はでんぷんのりなどがありますのでそちらを使うと便利でしょう。これらを先ほど用意したテープ状の布にこの「のりうるし」をへらでまんべんなく塗り、わんの縁にしっかりと貼ります。これで補強は完璧です。

最近では布を補強としてだけではなく、わんの側面などに張って1つのデザインとして仕上げている漆器が多くなりました。

布目にうるしが溶け込んで、優しい風合いを醸し出しています。

うるし7 ~手間がかかる「塗り」の工程~

2012年 5月 08日(火曜日) 09:00
今回からは、わんを塗る工程を紹介していきたいと思います。わんの木地の入手方法は、私の場合、漆器の産地である「輪島」や「山中」などの木地師に注文しています。宮崎にも木地をろくろでひく職人がいらっしゃいますので、自分でデザインしたわんの形をひいてもらってもよいのではないでしょうか。

「塗り」の工程はおおまかに次のようになります。
①木地固め
②布着せ
③さび付け
④磨き
⑤中塗り
⑥仕上げ塗り
⑦ろう色
と結構手間がかかります。

まず、はじめに行う作業は「木地固め」。
これは木地を強固にするためのものです。
生うるしに同量のテレビン油を混ぜ、よくかくはんしてサラサラとした薄目の液体を作ります。この液をはけで何度も塗ってわん木地に吸わせます。乾燥しているわん木地は、のどが渇いていたかのようにゴクゴクと、この薄めたうるしを吸い込みます。うるしは木地の表面だけでなく、中まで浸透して、わん木地を内側からがっしりと固めてくれます。

適度に湿気をもつ室にうるしを吸わせた木地を一日入れて乾燥させると、もうこれだけでも立派な「漆器」になっています。「木地固め」は、わんだけでなくロープや和紙、葉っぱなど、あらゆる素材に施します。

うるし5 ~目的に応じて3種類を使用~

2011年 11月 29日(火曜日) 09:00
今回はうるしの種類について説明します。

うるしは「うるしの木」から取れる天然の塗料で、現在その99%が中国から輸入されています。
このうるしの樹液は、そのまま塗料として使われるわけではありません。
取れたばかりのうるし液には木くずやほこりなどの不純物が入っている上、質も均一ではなく、水分が多過ぎたりします。そこでうるし液をかくはん機で練り合わせ、さらに熱を加えて余分な水分を取り除き、精製うるしにします。こうして精製されたうるしは大きく分けて「生うるし」「透明うるし」「黒うるし」の3種類に分類できます。これらがうるし精製業者から私達の元に届きます。

「生うるし」は、擦りうりしや砥(と)の粉に混ぜて下地に使います。
「透明うるし」は茶色っぽい色の付いたもので水のような無色透明ではありません。
主に、うるし用顔料と練り合わせ、各種の色うるしを作ります。
朱・黄色・緑などのうるしが必要なときはこの「透明うるし」を使います。
そしてもうひとつが「黒うるし」です。
精製の段階で水酸化鉄を混ぜて作ったもので、つやのあるものやつや消しなど、その使用目的によってさまざまな種類があります。
最近では100g単位でチューブに入った「色うるし」も売っているので大変便利になりました。

うるし4 ~乾燥に最適な湿度75~80%~

2011年 11月 22日(火曜日) 09:00
今回は、漆器制作に当たって重要なポイントとなる「うるしの乾燥」と「擦りうるしの仕上げ」についてを紹介します。

このうるしというものは、湿度がないと乾くことはありません。
温度20度、湿度75~80%が最適です。
ですから乾燥室はこの環境を作ってやらなければなりません。

一番簡単なのは、段ボールの底に新聞紙を敷いて霧吹きで湿らせます。
その上に角材を井の字に組んで干し場を作ります。
その干し場に塗った物を置き、ほこりなどが入らないようにふたをして乾燥させてください。

夏場だと半日、冬場だと丸一日かかります。
擦りうるしにはこの作業を5~10回繰り返します。
2回目が終わったら、極細目の耐水サンドペーパーで水研ぎして、素地の調整をもう一度行います。3回目からは生うるしを薄めずにそのまま布に付けて擦り込んで下さい。作業を中断させ、また後日作業を行う場合、はけにうるしが残ったままでは固まって使うことができなくなりますので、菜種油をはけにつけ、うるしをしごき落とすようにしっかりと取り除いてください。

再度使う時は逆の手順でうるしを付けて油をしごき取ります。
「擦りうるし」はうるし塗りの基本。木目がつややかな模様となって浮かび上がります。

うるし3 ~古来の方法で趣のある漆器を~

2011年 11月 15日(火曜日) 09:00
擦りうるしを始めるにあたって用意するものは、生うるし、テレビン油、へら、ウエス、皿、プラスチック製手袋、厚めのガラス板、菜種油、はけになります。

この擦りうるし(ふきうるし)は、木材がもつ正目、板目などの素地の美しさを生かした日本古来からの素朴な塗り方法です。北陸地方では大工さんが、かもいや柱、階段などをこの擦りうるしで仕上げています。どこの家庭にも転がっている小箱やスギ、ヒノキ、ケヤキなどの板や剪定(せんてい)した梅の枝などを活用して、この手法を施せば、趣のある漆器が出来上がります。

まず、擦りうるしで最も重要なのは素地の良しあしです。そのために「素地の調整」を行います。初めに、素地となる物にサンドペーパーをかけ、表面をなめらかにしておきます。次に手袋をはめ、ガラス板の上に皿を置き、生うるし8に対してテレピン油を2の割合で出し、へらで混ぜ合わせたら、刷毛を使って素地に塗っていきます。

塗り終わったら絹布やナイロンストッキングなど、毛羽のない布を丸め、円や縦横を描くように擦り込み、最後に木目の方向に拭き取って下さい。きれいに拭き取ったら室に入れて乾燥させますが、漆器の室は湿度が重要な鍵となってきます。次回はこの室について説明します。

うるし2 ~誰でもできる「塗り」に挑戦~

2011年 11月 08日(火曜日) 09:00
その当時、わたしは神戸に住まいを構え、東京と名古屋にも事務所兼住居を借りていました。コマーシャル、旅番組、スポーツ番組、音楽番組と、依頼があれば何でもこなしていました。

しかし、角偉三郎さんとの出会いから、次第にうるしにひかれていった私は、自由に使える時間が欲しくなり、旅番組だけ残してほかの仕事はすべて断ることにしました。

そんなある日、名古屋市のうるし専門店ののれんをくぐりました。
そこは素人では入りにくい雰囲気の店構えでした。
「わたしはうるしが好きです。だから自分でうるし塗りをしたいのです。」
店の主人は少し戸惑いながらも「ほう、うるしが好きかね」とほほ笑んでわたしの話しを聞き、そして教えてくれました。

「うるし塗りは特殊な人がするものと思われがちだがそうではありません。初心者は簡単なものから始めて、慣れるに従って高度なものに進めばいいですよ」

私は主人のアドバイスを受けて、チューブ入りの「生うるし」一本とはけ一本、へら二本、そして揮発性の薄め液であるテレビン油を購入しました。
しめて8800円と比較的安価で初めの一歩を踏み出せるようです。
これらを使い、手始めに誰でもできるやさしい塗り「擦りうるし」に挑戦したのです。

うるし1 ~作家の言葉で向き合う生活~

2011年 11月 01日(火曜日) 09:00
うるしは日常生活で扱いにくいとのイメージが強いようですが、英語で「ジャパン」と呼ばれるように、うるしが日本を代表する工芸であることが分かります。

今から15年前、私はテレビ番組のディレクターとして輪島を訪れていました。
日本一の漆器の産地の今と、ある作家を取材するためです。
その作家の名前は角 偉三郎(かど いさぶろう)さん。
角さんは漆面に金を埋め込む沈金技術で日展の特選を取った、日本を代表する沈金作家でした。
しかし40歳の誕生日を機に突然「輪島沈金」から決別してしまったのです。
「技を極めすぎて素材の生命が見えなくなってしまった」。
角さんは沈金の技術を封印し、原点に戻って椀を塗り始めました。
角さんは今まで塗った事のない椀。その椀は優美な輪島塗とは程遠いものでした。
刷毛目があり、うるしに混ざる不純物「ツブ」が付き、そしてなにより輪島塗にあってはならない表面の「ちぢみ」がありました。

「これがうるしです。」
角さんは当たり前のようにいい、こうも付け加えました。
「もし、あなたがうるしを好きならば、あなただってやれるよ。」
雪が舞い散る能登半島でこの言葉が心の中を反復しました。
この日からわたしの「うるし」と向き合う生活が始まったのです。
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