綾町の工芸について
「工芸集団に、食品が入っているのですか?」
お客さまが不思議そうな顔で尋ねられます。
綾町工芸コミュニティ協議会に食品部門があるのは、お客さまの潤滑油……というわけではなく、綾の工芸が照葉樹林文化を背景としているからです。
照葉樹林文化とは、端的に言えば「日本の生活文化を形作ってきたもの」。
そして生活文化とは、「衣・食・住」。
身にまとうものや飾るもの、発酵や昔ながらの食、食生活を豊かにする器類、住み心地の良いしつらえを作る家具など……。
照葉樹林文化をベースに「手作りの里」として半世紀を歩んできた綾は、木工だけではなく、陶芸だけでもなく、生活を楽しむ工芸が一堂に会する町になりました。さながら、スギ・カヤ・ヒノキという針葉樹も、サクラやモミジのような広葉樹も共存している綾の照葉樹林のように、多様性のある全国でも珍しい工芸集団なのです。
一本の木があれば、主幹からは大きい木工品、端材からは小さな木工品、葉や木の皮などから草木染の染料、枝などは陶器を焼く薪に、木灰は藍の発酵建てや陶器の釉薬に、木灰の灰汁は草木染の発色やこんにゃく作りにも使用されます。
日本の暮らしは長い間、人々と共に木があり、人は木に感謝しつつ、余すところなく使ってきました。
とはいえ、木は切り倒してすぐに使えるのではありません。乾燥させながら寝かせ、工芸品になるのには短くても数年、長いと十数年の時間が必要となります。
綾の工芸者たちは、自然と共に生きながら、自然のリズムで物づくりを進めています。自らも自然の一部であると感じながら。
水の恵みが工芸を支える
照葉樹林から湧き出る清らかな水は、草木だけでなく鮎などの多くの命を育み、焼酎やお酢の美味しい醸造を支えます。
その清らかさは里である綾の街も恩恵を受けており、水道水がとてもクリア。クリアな水での染めは美しい発色に繋がり、草木染も鮮やかな色を得られます。
名水の町100選に選ばれた綾だからこその色や味があります。
工芸集団のひむか邑設立以来、約半世紀。綾を訪れ、製品を使ってくださる方が、綾の工芸を育て上げてくださったと言っても過言ではありません。
問屋が買い付けるのが当たり前だった時代に、工芸者自らが作品を持って全国を回りました。お客さまとのやり取りの中からヒントを得、次の制作へ繋げていきました。
昨今、物づくりの人々はクリエーター(創造する人)と呼ばれますが、綾の工芸家たちは、お客さまの声に応えられるアーティザン(熟練職人)でありたいと思っています。
個々の技術向上はもちろん、多様な作り手が集まる綾だからこそできるものを目指して、これからも歩んでいきます。